【レビュー】門田隆将「奇跡の歌」を読了。高知のうた『南国土佐を後にして』にまつわる物語。
スポンサーリンク
南国土佐を 後にして
都に来てから 幾年ぞ
この歌詞で始まる歌を、いま読んでいる方はご存知でしょうか。
「南国土佐を後にして」という、高知県にかかわる人にとって、非常に大事な郷土の歌であります。
思い出します 故郷の友が
門出に歌った よさこい節を
そして、この歌にまつわるエピソードを記した本が、2017年7月に出版されました。
「奇跡の歌:戦争と望郷とペギー葉山」
高知県出身のジャーナリスト・門田隆将(かどた りゅうしょう)氏によるものです。
一言でいえば…胸が熱くなりました。
高知を舞台にしたこの歌が、どんな思いが込もっているのか。追いかけてみましょう。
土佐の高知の はりまや橋で
坊さんかんざし 買うを見た
「南国土佐を後にして」という歌について
高知ローカルを象徴する歌謡曲。昭和期の"中学生の集団就職"を描いた歌詞です。
歌手・ペギー葉山さんが歌い、全国区となったのがきっかけでした。
この歌のモデルは「南国節」と呼ばれる、日中戦争に出征した高知人兵士たちが唄った歌がもとになっています。
江戸時代の僧侶・純信と職人の娘・お馬の悲恋物語「よさこい節」の一説が原点となっています。
土佐の高知の はりまや橋で
坊さんかんざし 買うを見た
その歌碑が高知市はりまや町に残るほど、「高知人の歌」として印象深いものとなっています。
youtu.be より引用。本歌は10:52から
どこか懐かしげに、儚げに始まるイントロのメロディ。
こころに染み入る、一語一語の言葉たち。
それは生まれ育った故郷の、情景が自らのなかに呼び戻されるような気持ち…。
戦争を超えて歌い継がれ…
"不思議な力"が、この歌に込もっているのです。
*ペギー葉山さんは2017年4月に、83歳で逝去されました。
歌のきっかけは、高知出身者が集う "鯨部隊(くじらぶたい)" から
第40師団の集合写真。(部隊の一員、渡辺盛男さん提供)
「南国土佐を後にして」と日中戦争 高知の兵士の望郷の調べ|高知新聞より
1937〜1945年と8年にわたった日中戦争。
この戦争で、高知県人を中心に編成された部隊が活躍しました。
第40師団に所属した歩兵236連帯、通称:鯨部隊(くじらぶたい)です。
「獰猛なあの、ヒョウを飼った部隊」などの伝説を残しました。
高知出身者のだれが歌詞を作ったかは判明していませんが、
この部隊で歌われたころは、すこし違う歌詞で歌われていました。
1.
南国土佐を後にして 中支に来てから幾年ぞ
思い出します 故郷の友が
門出に歌った よさこい節を
土佐の高知の播磨屋橋で 坊さんかんざし買いよった
2.
月の露営で 焚火を囲み
しばし娯楽の ひと時を……
*比較はこちら(南国土佐を後にして -: 歌ネット)より
広大な中国の大陸から、ふるさと高知県を懐かしみ忍ぶ歌として、
行軍中や宴会のときに歌われました。
この後、高知を拠点に活動していた作詞家・武政英作*1によって、歌詞は昭和の集団就職を思わせる歌詞へと変わっていきました。
ジャズ歌手のペギー葉山が、「南国土佐を後にして」に命を吹き込んだ!
*【参照】南国土佐を後にして ペギー葉山 - YouTubeより
それから二人の歌手によって歌われますが、もっとも大きなブームを起こしたのがジャズ歌手・ペギー葉山によるカバーでした。
ちなみに書籍の表紙は、ペギーさんの若い頃(1958年、NHK高知で唄った時)です。
このオファーがきた当初は、あまり受けるつもりがなく、消極的だったと言います。
この時、彼女はすでに紅白歌合戦5回に出場したジャズを得意とした歌手。
「自分はジャズ歌手」と、歌謡曲への参入はあまり考えられなかったそう。
一応のオファーを受け、聞き込んだのちNHK高知の開局記念番組「歌の広場」に出演。
ペギーの眼前で、聴衆が大波のごとく盛り上がる姿を目にしたのでした…!
こうして、ジャズのみにならず歌謡曲へと幅を広げるキッカケとなったのです。
この功績によって、ペギーは1974年に「名誉高知県民」となりました。
「望郷の歌」は、高知人の歌として残り続ける
この歌が「高知の歌」として根付いた、証明の一つがあります。
2012年に「南国土佐を後にして」の歌碑が設立されたのでした。
「南国土佐を後にして」の歌碑の除幕式で 写真特集:時事ドットコムより
場所ははりまや町の「はりまや橋公園」。
歌碑からは1時間おきに*2 歌が流れる仕組み。
そのリズムに合わせて、奥にある鯨の親子2匹が潮を吹きあげるのです。
【MAP by Google】
いかがですか?がっかり名所にもこんな深い物語があるんですよ。
この歌のもととなった大元はどこでしたっけ…?
はい、そうそう。「はりまや橋」ですね。
土佐の高知の はりまや橋で
坊さんかんざし 買うを見た
「日本三大がっかり名所のひとつだ〜」なんて言わずに、
ちょっと読んでみてから、高知県高知市のはりまや橋に訪れてみてはいかがでしょうか….。
ということで、はりまや橋ゲストハウスの店主・片岡からでした。
この歌のことを書けて、心の底からよかったです。
では、またどこかで会いましょう!